第一回 スペシャルインタビュー 後編




  • 現在のインスパイア華道部メンバーは、スタートした時からのメンバーと最近外部から入会されたメンバーが調和して、とてもよい雰囲気ですが、高槻さんは他のメンバーからお稽古について何か聞くことはありますか。
  • インスパイア華道部は、もともとは社内メンバーでスタートして、一時期は「男子限定」で取り組むこともしましたが、最近はプロジェクト等をご一緒する機会のある社外メンバーにも参加してもらっています。FacebookやInstagramを通じて華道部の活動を知り、「興味あります!体験させてください。」というところがきっかけになっていまして、基本的に一切強制はしていませんが、華道も「道」であり、継続することに意義があると思っておりますので、スケジューリングだけは優先するようお願いしています。長く続けているメンバーは、初伝、中伝、皆伝とお免状も頂いておりますし、自由花から生花中心のお稽古にシフトしています。新たに加わったメンバーもそういった経験者の様子を見て、「更に精進していこう」と感じているようです。
  • そうですか、面白いですね。皆さんにはぜひ連続してこの場に登場していただきたいです。 このインタビューは、エグゼクティブならではのいけばなへの視点やこだわりを探るのが目的です。
    高槻さんからみて、華道が仕事に活かされていると思われるところはどんなところでしょうか。
  • ひとつは、やり直しの効かない判断を積み重ねるところですね。枝や葉などを花鋏で切ることはやり直しが効きませんが、やらなければなりません。しかも、時間を掛けて悩み続けるわけにも行きませんので、素早い判断が求められます。ビジネスの現場も、逃げるわけにはいきませんし、そういった判断の積み重ねです。いまひとつは、全体と細部の両方をしっかりと観察するところですね。具体的には、点・面・線が織りなす構造と、際(きわ)特に水際をみるところでしょうか。自由花でも生花でも、全体のバランスと細部のこだわりの両方があいまって絶妙の仕上がりになるのだと思いますが、ビジネスにあっても、どちらかに偏るとうまくいきません。華道を通じて、脳の訓練になっているように思います。

  • 生花三種生

  • 第二回御茶ノ水エキシビション

  • 自由花
  • 私から見ると、高槻さんはとても大局的な視点と繊細な部分と両方持ったかた、という印象があります。そして約束は必ず守る、その信頼感が全てに波及して国際的にも活躍される要因だと。
    表参道のエキシビションで選ばれた花器や花材をみてもわかりますが、、笑 今まで、実際にお稽古して、印象に残った花形や花材はありますか。
  • 恐縮です。御縁あってお会いできた方々とは、ボクも何かを得させて頂きますが、ボクからも何かを得て頂ければとは常々思っているところです。約束が必ず守れるかと言いますと、ベストは尽くしますが、必ずしもすべてが約束通りになるとは限りませんので。
    エキシビションや東京清祥会支部の花展で用いた花器や花材はいずれも印象深いのですけれども、第1回エキシビションで用いたパート・ド・ヴェール技法で草花をあしらったガラスの花器と、第2回エキシビションで用いた白い椿の印象が鮮明です。この椿は、準備段階では蕾でしたが、エキシビション本番では狙いどおり開花してくれまして、嬉しかったことを覚えています。
  • 京都の家元へ行かれるとさらに多くの学びに気づかされますね。
    先日は『春のいけばな展』の見学で、京都の池坊家元本部へ伺いましたが池坊の家元本部はいかがでしたか。
  • 毎回、紫雲山頂法寺 六角堂をお参りするところから見学がスタートします。歴史ある由緒正しき池坊発祥の地でしばし瞑想し祈願することで、すっと心も落ち着くわけですが、道場席に入りますと、とにかく圧倒的な迫力で先達の立派ないけばなが怒涛のごとく押し寄せて参ります。その中にあって、正座をして、正面からしっかりと作品を拝見しますと、家元と次期家元の作品はひとつまた違う雰囲気で語りかけてくるように感じます。道場席のあとは、池坊本部に移動して、テーマ毎に研究やご指導をされていらっしゃる教授とそのお弟子さんの作品を見ることになります。すべての階を見終えますと、映像による情報インプットが多すぎてぐったりと疲れるような感覚に陥ります。そのため、この春は「生花」にしぼって作品を拝見することにしてみました。全体を拝見した後に、近寄って水際をじっくりと観察し、再び全体を拝見するようにしたのですが、細心の注意をもって生けていらっしゃることがよくわかり、大変勉強になりました。

  • 道場席の高槻さんと森
  • 最近、京都も東京も観光客が大変増えています。
    オリンピックに向けてますます日本はクローズアップされていくと思いますが、逆に海外で活躍されている日本人について、気になることもあるのでは。
  • メディアでとりあげられるような活躍をされている日本人、特に若い人たちは凄いと思いますね。気圧されることもなく、前向きで明るく、常に力強いのではないでしょうか。普段は日本で生活をしていて、たまにビジネスや観光で海外に出る日本人の中には気になる方々もいらっしゃいます。こういう方々の中に、日本を必要以上に卑下したり、日本の良さや強みをアピールできないでいるように見える方がいらっしゃることがあります。歴史、独自の文化、自然との調和などなど、日本には誇るべきものは多くありますので、少し調べて自分の言葉で説明できるようにしておくだけでも随分変わると思います。ASEANなど親日度の高い地域では、基本的に尊敬の念をもって見られているということも意識して、彼らの期待に応えられるようにしなければもったいないとも思います。
  • AI (人工知能)の開発が加速していくのを知るにつけ、これからの日本、そして世界はどうなっていくのかと不安を感じるときがあります。価値観や表現がどんなに変化しても、私はこの池坊いけばなは必ず残っていくと確信しているのですが、高槻さんは将来の日本や世界にどのようなビジョンをお持ちでしょうか。
  • 少々俯瞰して考えてみますと、産業革命に端を発した西洋的科学思考主導の近代経済成長は限界を迎えていて、次なる道筋はまだ不明瞭なままです。西洋的科学思考の背景には、人間が自然を支配できるという哲学が横たわっているのではないかと思います。これは言い換えると、今までは西洋的自然支配哲学による「収奪型の経済成長」を実現してきたということです。一方、東洋は、人間が自然を支配できるとは考えず、人間は自然の一部であり、自然と共存するものであると考えます。これからは、東洋的自然共存哲学に基づいた経済成長もあるのではないでしょうか。日本は東洋の国でありながら、最初に西洋的科学思考を取り入れて経済成長を遂げた国ですから、東洋的自然共存哲学による「循環型の経済成長」を率先して実現し、東洋諸国はもちろん、西洋諸国にも示していくという役割があるのではないかと思っています。グラフのイメージでいえば、ひたすら右肩上がりの指数関数を目指すのが収奪型の経済成長で、そうではなく、三角関数のように、山もあれば谷もあるけれども、持続していくことに重きを置くのが循環型の経済成長です。

  • クアラルンプールのペトロナスツインタワー
  • そうなんですね。とても心にしみます。わたしもこれからの日本を支える若い世代のかたにはビジネスの実力とともに、日本人としても魅力を深めていただきたいと思います。その一面として華道の持つ哲学や普遍性を学んでいただければと切望します。
  • 一見、ビジネスとは関係性の無さそうないけばなではありますが、森先生がご指摘されたとおり、その哲学や普遍性には大変な価値があると思います。先ほどお話した西洋と東洋という対比にあっても、シンメトリーなフラワーアレンジメントとアシンメトリーな華道の世界観の違いも同様のことを想起させるものです。華道では「陽方と陰方」つまり、太陽による光と陰を意識しますし、立花や生花では自然にあるがままに花卉草木を配置しますので、必然的に非対称になるわけです。作品そのものが自然を切り取る、もっと大げさにいえば、宇宙を表現しています。そのような普遍性を常に感じることになります。そして池坊の歴史を学びますと、室町時代には基本体系が完成していたことにも驚かされます。華道を嗜むことによって、日本人としての深みを増すことができるわけですから、海外を意識するビジネスパーソンほど、華道を嗜むことをお薦めしたいと思っています。
  • 池坊は来年で555年目を迎えます。この伝統の要因は『不易と流行』だと思うのですが、これからの池坊が時代に則して変化していくとしたら、どのようなところだと思われますか。今後の池坊に望むこと、いけばなbijouxのお稽古や活動にご希望がありましたらお聞かせください。
  • 閉じた池坊ではなく、開かれた池坊とでも言いましょうか、道として『不易』に拘り美と哲学を究めることも大切ですが、しなやかに変化発展をしていく『流行』も同様に大切です。外国人向けの情報発信、音楽や演劇、絵画など他の芸術とのコラボレーション、リアルな花展だけでなく、インターネットでのバーチャルな花展などが『流行』に値する部分の具体的なイメージです。いけばなbijouxには、そういった新たな展開を牽引する、地平を切り開く役割を期待していますし、ボクもその一員としてできることを実践して参りたいと思っています。
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    インスパイア『感謝の会』:帝国ホテル いけばなbijoux制作の立花と舞台花
  • きっと、このインタビューを読んで、いけばなに興味を持ってくれるかたも出ていらっしゃると思います。
    よろしければ、これから華道を学ぼうかというかたににアドバイスをお願いします。
  • 百貨店などで花展が開催されていたり、全国各地のいけばな教室で体験教室の機会があったり、身近に華道を感じることができる機会は、実は結構多くあります。まずはそういった場に一歩踏み出してみて頂いて、実体験をするということが良いのではないでしょうか。そうすると、意外と敷居が低いということを体感できるはずです。かつては男性の嗜みであったという事実もあまり知られていませんが、男性でも恥ずかしがることはありません。日本の美についても、体系的かつ構造的に学ぶことができますし、外国人とのコミュニケーションの場でも、強力な武器になりますから、華道そのものを究めるというよりも、少し幅広いテーマで捉えて頂いて、自分なりの目的を定めて頂くと長く続くと思います。
  • 最後になりましたが、高槻さんにとっていけばなとは何かを、ひとことでお願いいたします。
  • 毎回様々な学びがあり、様々なシーンで活用することもできますので、ひとことに纏めるのは大変難しいのですが、あえて挑戦してみますと、「心の安らぎを得る鍛錬」だと思います。お稽古はあっという間で、時間が過ぎることを忘れますし、いけ終わりますと、すっと心が落ち着きます。普段と違う部分の脳が刺激されたような感覚で、心地良い充実感に包まれるのです。そして何か学びもある、それがボクにとってのいけばなです。
  • 全ての質問に誠実にお答えいただき、本当に有難うございました。私自身も大変勉強になりました。 これからのインスパイア様の動きにも注目してまいりたいです。益々の御活躍をお祈りいたします。 新企画のスペシャルインタビューが気持ちよくスタートしました。このインタビューはこれからもリレーしていきたく、次のかたを高槻さんにご推薦いただきます。 次回はどんなかたが登場してくださるのでしょうか。 皆様、楽しみにお待ちください!平成28年5月28日
  • 第1回 高槻氏インタビュー前編 はこちら